山下達郎を流せばいいって話じゃない(龍が如く6ネタバレ感想)

桐生ちゃんが命を懸けてきたこととは何だったのだろう。

前提として、私は5における澤村遥というキャラクターの立ち位置、在り方に決していい感想は持てなかった。アイドルになると大阪へ行き、様々なことに巻き込まれそれでもドームでの公演を成功させた。と思ったら突然のぶっちゃけ&引退。現実にそんなことやったら例え遥の生きてきた過程に何があろうと大顰蹙ものだろう。何だそれ、だ。6はそんな遥の引退後から話が始まる。
ドーム公演を出来るくらいのアイドルが電撃引退、そしてヤクザに育てられていた、なんて世間からすれば奇異の目で見られて当然だ。案の定遥の生活は早々満帆とはいえない。好奇の目と、周囲への影響と迷惑を考え、遥は一人沖縄を後にする。アサガオの子供たちに嘘をつき、桐生がシャバへ出てくる間、遥がずっと姿を隠していた。まあ、その隠していた間に、実は広島の若いヤクザとねんごろになり、若干19歳の身で母となったわけなのだが。

ちょっと待て。

若いとはいえ、あの幼かった遥が母…。そこには感慨深いものがあ…、るわけないだろう。桐生はアサガオの皆、そして遥のために身を綺麗にしようと実に3年の刑期に服したのだ。それを何だ。何でヤクザの男との間に子供を身篭っているのだ。いくら配役が藤原竜也であろうと、3で声優をしていようと、キャラクターとしてはただのぽっと出野郎である。何でぽっと出ヤクザが、そして父になっているのだ。
遥は、桐生と同じく龍が如くシリーズにおける大事なキャクラターだ。幼い少女が過酷な運命の中で必死に生きる、1のストーリーは、遥のことを思うと胸が切なくなる。あんなに幼かった遥。手を繋いでくれた遥。弁当、牛丼、ジェラートを食べてもまだ「お腹すいた」と言っていた遥。プレイスポットにおいて遥からいくつ鬼畜なお願いをされたことだろう。いつも桐生視点で遥を見ていた。謂わば私は、桐生と同じ様に遥を娘のように見つめていた。そんな大事な娘がだ。アイドルになるという時点で不安になり、引退時には「そんなことをして世間の風当たりはどうなんだ」と心配し、待っていた最新作をつけたらぽっと出ヤクザにとられていた…。

笑えない。

全然笑えない。おまけにぽっと出ヤクザは最初しらばっくれる。別の男と遥は…、と龍が如くシリーズではお馴染み、ミスリードな推理の前で「俺たちの遥ちゃんを!!」といけしゃあしゃあと言ってのける。え、お前も遥とそういう行為をしていたんだよね?子を授かる、というのは奇跡みたいなものだ。何度重ねても授からない人もいれば、一度で授かる人もいる。ぽっと出ヤクザも、遥と夜を共にした事実がある以上、父親の可能性があるのだ。というかお前なのだが。大体ミスリードの前で、ぽっと出ヤクザは何を思っていたのだろう。口では「許せない!」とか言っていたが、その時点で遥は身の覚えがある自分、そして勘違いとはいえそいつとも体を重ねていたということである。少しはショックを受けろ。宮迫を見習え。もう少し動揺しろという話だ。
そして本当の父親が自分だと知られた前で「だって一度しか…!」なんて随分なことを言ってのける。命知らずだ。何せそいつの隣には、あの堂島の龍がいる。遥の為なら虎を倒し、刺されても撃たれても不死身の心で生還してきた桐生一馬の前で、よくもまあ。自分が桐生だったら、その瞬間に虎落としだ。まあ、ぽっと出ヤクザは、その後別の理由を盾に、桐生に派手に殴られたのだが。

その後もぽっと出ヤクザは、桐生、ひいては我々をいちいちカチンとさせる言動を繰り返す。それは目覚めた遥も同じなのだが。
結局、奴は知らないのだ。私たちが過去5作を通じてどれだけ遥の傍にいて遥のことを想ってきたかなんて。100億の子供として狙われ、沖縄の地で束の間の静かな?時間を過ごし、アイドルとしてデビュー、そして電撃引退。いつだって桐生は、遥の為に戦い、傷つき、それでも立ち上がっていた。私たちがどれだけ奮闘してきたか、お前も1~5をやってみろ、と言いたくなる。プレイした後もその口がきけるのかと。大体ぽっと出ヤクザには、中国マフィア、そのボスの血が流れているのだ。桐生は「血で人を選ぶな」なんて言っていたが、ぶっちゃけ龍が如くという世界の中でこれほど恐ろしい因縁もない。一応6のゲーム内では、もうこれ以上ぽっと出ヤクザ、そして子供に危険が及ぶことはないらしいが、そんなもの信じられない。世の中というのは実に恐ろしい。その血が流れているというだけで、本当に安全だとは正直プレイヤーの私には思えない。何だかんだで6まで引っ張られた蛇華を見ろという話だ。大体見守っていたお目付けヤクザたちも無能の極だ。確かに長男が生きていればぽっと出ヤクザには出る幕などなかっただろう。だからこそ油断していた?つくづく危機管理の薄い現場である。結局無能の極みがアルティメットヒートの連鎖で、今回の事件の一端を担ってしまった。そして同時にプレイヤーである私の心も砕いてしまった。
0のマキムラマコトみたく、ヤクザにその幸せの約束を見守られ、最後はカタギの人と共にお日様の下へと戻っていく、という流れは実に感慨深かった。真島の兄さんの心意気にただただハラショーだった。そして密かに遥もこうなるだろうと、心のどこかで思っていた。桐生だってそれを望んでいたのではないだろうか。ならばぽっと出であろうと祝福は出来たと思う。それでもヤクザがいいというならば、せめて3とか4のあたりで片鱗を見せてほしかった。甘酸っぱい恋、じれったい距離、そして…。そんな過程もなく(6の中ではあったのだろうが、プレイヤーがそれを見ることはない)はい子供です、なんて。桐生さんが許してもプレイヤーは許しませんよ!である。

最終的に、桐生は全てを引っ掻き回し壊し、そして自分も死んだ人間としての処理を望む。もう今後二度と遥やその子供、アサガオの皆と会えない。それでも自分に周りにいてくれた人たちを守るためなら、その道を選ぶという。これも正直、えー、だ。だって結局生きている。例え書類上では死んでいても、生きていては駄目なんじゃないだろうか。というか桐生の選択を、私はもう信じられないでいる。これまで彼が選んできた道、そのどれもが良い結果を生むことはあまりなかったからだ。大体書類上死んだ人間として、これからどうやって暮らしていく、それも不思議である。そして遥は、子供とぽっと出ヤクザと共に沖縄へ帰る。歩こうとする子供に「頑張れ」なんて言っていたが、正直頑張るのはお前たちだよ、と心底思った。

6だけをやれば、あるいは「楽しかった!」で終われたかもしれない。実際、サブストーリーやミニゲームは相変わらず面白かった。草野球も漁も猫集めもスナックもよかった。尾道の美しい景色も、進化した神室町のグラフィックも素晴らしい。1から見てきた1人として、感慨深い。だからこそ、どうして既存プレイヤーに鞭をうつようなストーリーにしたのだろう。それともこれだけアレルギー反応が出ているのは私だけなのだろうか。いや確かに染みる部分はあった。ビートたけし小栗旬…、ってこれ6での新規キャラじゃないか!そう、もう既存キャラクターで胸が染みることはないのである。それがとても悲しい。4で人気キャラクター、真島に兄弟分をあてがえ、5では更に元嫁。もう真島の兄さんにテコを入れることは出来ないからといって、なぜ遥がこんな目に。龍が如くは著名人をモデリングすることが多い。だから、どのキャラクターにも格好いい染みる見せ場を作らなくてはいけないのだろう。何だかその皺寄せが既存キャラクターにきているようでならない。だが今回の6で桐生一馬の物語は終わりだという。それに安心した自分がいる。遥のこれからを見なくてすむ。何より、人間台風の桐生一馬を見なくてすむ。もう本当に、休ませてあげてほしい。山下達郎を流しておけばオールオッケー、とかそういうことの前に、本当…、お願いしますよ…。セガさん…

※クランクリエイター、堂島大吾のスキル発動時の台詞は最高に格好いいと思う。